『リハビリ教育のネタ』:その16.―手作り―
学内実習で使う器具・道具は、高価で最新の物は使えないし、それらを使うほどでもないことが多い。
物理療法の実習で、実験的に皮膚温の変化を調べさせる。このとき、放射温度計は何台も揃えるにはやや
高価だし、安価な食品測定用の温度計などでは、皮膚測定のための補正係数も0.97に設定できる物がない。
接触型のサーミスタ温度計は放射温度計に比べると安価で、学生の実験には十分だと思うのだが、皮膚に
貼り付けようと思うと、サーミスタ・プローブの形状に気に入る物がない。あれこれ探しているうちに行
き当たったのが、温度計キットである。秋葉原の電気店「秋月電気」で売っている。2000円で、ネット
販売もしていて、秋月電気のホームページ http://akizukidenshi.com/ から通販でも求められる。
このキット、今までにゲルマニュウムラジオ程度の簡単な電子キットを組み立てたことのある人なら2
〜3時間で出来る。プローブを外に出そうとすると、1メートルまでは導線を伸ばすことが出来るが、キッ
トの中には含まれていないので、シールド線が要る。小数点を表示するようにジャンパー線をつけること
を忘れずに。ケースも、パーツ屋さんで買った方がいいだろう。テスターがなくても、氷と湯で温度表示
の調整可能だ。
少ない予算の中で、物理療法などの実験時に測定器具でその他に使えそうな物のお薦めは、動脈血酸素
飽和度測定装置パルスオキシオメーターの『フィンガーSO2:小池メディカル』がある。
これは、45000円ほどで購入できる。安い!
(茂野 史利)
『リハビリ教育のネタ』:その17.―パソコン任せ―
コンビニやファーストフード店のレジでアルバイトをすると、マニュアルどおりの言葉で感情も思考も
介在しない挨拶が身にしみつく。これが、マニュアルどおりにしか動けず思考の無い「マニュアル人間」
を作り出す一因であろう。相手が何を考え何をしようとしているか、お構いなしに。
しかし、学生がこんなマニュアル人間ではプロフェッショナルには成れない。臨床では、記憶だけの知
識では役立たず、理解・思考・応用の能力が力量になる。ゆえに学生には考える能力をつけることが絶対
必要となる。考えるには原理や理論を理解しなければならないが、逆にこれが分かれば学習も容易となり、
記憶に頼る必要がなくなる。
これが授業となると、例えば物理療法で、実験的に皮膚温の変化を測らせてレポートを書かせたら、パ
ソコンで統計処理してグラフまで書いてくれる。便利になったものであるが、これでいいのかと考えても
しまう。パソコンでは、キーを叩けば答えが出てくる。その過程など、如何でもいいのだ。しかも、答えは
1つしかなく、複数解答でも、解無しでもない。だから、学生には‘理論が解ってから使ってくれよ’と思
うのだが、便利なことは確かである。パソコンではExcelでメニューバーの「ツール」から「アイドン」を
選び「分析ツール」をクリックすれば統計処理が出来るようになるが、このExcelに追加して使えるのが
Statcelである。『4Stepエクセル統計』(柳井久江 オーエムエス 1998 ¥3800)の添付ソフトをイ
ンストールするだけ。学生が使うには、安価で、もってこいだ。
これまで、医学において先人たちが何を考え科学的技術をどのように発達してきたかは『電気システム
としての人体』(久保田博南 講談社ブルーバックス 2001 ¥820)で知ることができる。
何事も、真理や原理を知って、応用すべし。
(茂野 史利)
『リハビリ教育のネタ』:その18.―新入生―
最近の、「入学してくる学生のレベルは?」と聞かれると、どうなのだろう。でもやはり、理解・思考・
応用の能力が低下しているかも。『ゲーム脳の恐怖』(森昭雄 日本放送出版会 2002 ¥660)によると、
テレビゲームばかりしていると、思考回路が抜け落ちて反射回路が発達するそうである。これでは、学習が
進まない。テレビゲームの影響だけなら、なぜか、「お手玉」をすると思考回路が回復するらしい。しかし、
入学してくるまでの教育のなかで、思考回路が形成されていないとなると、ことは重大である。いまは「ゆ
とり教育」についての批判と反省の声が多くなっているが、入学してくる学生が、これまでにどのような学習
方法をとってきたかを知ることも必要である。『論争・学力崩壊2003』(中井浩一 編 中公新書クラレ
2003 ¥760)・『なぜ教育論争は不毛なのか ―学力論争を超えて』(苅谷剛彦 中公新書クラレ 2003
¥760)は、このことを認識させてくれる。
もうひとつ、目立った傾向として、入学生にPT/OTの2世(の卵)が増えている。これは職業人として考
えれば良いことなのだが、手放しで喜べるものなのか。いまの若者は、どこかどこか違うように感じていたの
だが、『ぷちナショナリズム症候群』(香山リカ 中公新書ラクレ 2002 ¥680)で、昔の人が家業を継い
だのとは意識の根本が違うことで納得だ。まあ、それはそれでいいか!時代が違うのだから。
(茂野 史利)
『リハビリ教育のネタ』:その19.―業界―
「患者さん」を「患者さま」と言うのが、最近の共通認識である。しかし、なぜか抵抗があるのだ。どうし
ても「マニュアル用語」に思えて仕方がない。いや、それ以上に、耳障りで、また言い難いのだ。「患者さん」
を「患者さま」と言うようになった頃から日本の医療は変わったというのが、『日本の医療に未来はあるか』
(鈴木厚 ちくま新書 2003 ¥700)である。ここでの論述展開は、医療問題は医師の所為でなく行政に全
て責任があるとの主張であり、論旨には立場からの偏りはあるが、その意見が分からないでもない。業界の内幕
を知っていると、つい納得してしまうのが、『大学医学部の危機』(保阪正康 講談社文庫 2002 ¥629)
である。医療業界にいる一人としては、大きな波には流されないよう、遠くを見つめて広くを考えて、生き方を
決めていかねばなるまい。
(茂野 史利)
『リハビリ教育のネタ』:その20.―用語―
理学療法士協会ニュースに「‘訓練’ということばの行方」の補遺を投稿してあるのだが、一向に掲載してい
ただける気配がない。その後の調べで、‘訓練’ということばは古く中国語にあることがわかった。『字通』
(白川静 平凡社 1996 ¥21905)によると、中国で唐の時代で“杜甫”の詩に〈訓練強兵〉とあるとの出典
を載せている。そして、同字典では‘訓練’の解釈を〈兵を教練する〉としてある。なお、‘訓練’も“杜甫”
の詩を出典して、〈兵士を訓練する〉と解釈している。しかし、ことばの性格も時代とともに変化し、イメージ
も変わる。すくなくとも、その対象者から‘訓練’ということばが理学療法の不適切用語だと指摘もされていない
のに出版社を通じて関連領域の執筆者にまでその使用について圧力を掛けるのは、〈一種の言論統制であって表現
の自由を侵しかねない〉との危惧がある。
医学用語について、その使われ方とは違うが、誤読が多いのもこの業界の特徴である。例えば、「蝶番(ちょう
つがい)」を“ちょうばん”・「螺子(ねじ)」を“らし”と読んだりする。「罹患(りかん)」を“らかん”と
読むのは明らかに間違いで、「禁忌(きんき)」も本来は(きんい)であったと思う。面白いことに、高知では
「暫時(ざんじ)」を方言的に話し言葉でよくつかう。このためか、暫時と漸次が混乱しているようで、「漸次
(ぜんじ)」を“ざんじ”と読んでしまう。だから、「漸増抵抗運動」を“ざんぞうていこううんどう”という
業界人は土佐人である。
でもまあ、 ‘耳を立て’ ‘目を皿のように’してまで用語を吟味すると疲れますから、気楽に『新・医学ユー
モア辞典』(長谷川榮一 エルゼビア・サイエンス ミクス 2001 ¥3800)で医学用語を学びますか!?
(茂野 史利)
『リハビリ教育のネタ』:その21.―ホモサピエンス―
解剖学や運動学を考え詰めていくと、「人間はどこから生まれて進化してきたのか」との疑問に行き着いてしま
う。何時かのテレビ番組で、日本人は9人の女性から出発しているとあったが、人類はアフリカで一人の女性から生
まれたというのは今では周知のことである。もっとも、「女性から」というのは、遺伝子上の探索では女性について
しかわからないからではある。ちなみに、犬は、5匹の雌犬から出発しているとの学説が発表されている。
人類であるホモサピエンスは、猿から進化したことは間違いないが、気候の変化で森林を追われても、二足歩行が
出来て、雑食で、言語を操ってのコミュニケーションが出来たから、生き延びて繁殖したと考えられている。これら
の進化の過程が学べて、運動学の基本を考えるに参考になるのが、『ネアンデルタールと現代人』(河合信和 文春
新書 1999 ¥690)・『人類の進化』(埴原和郎 講談社 2000 ¥1900)・『ルーシーの膝』(イヴ・コパン
紀伊国屋書店 2002 ¥2000)である。
時間のあるとき、ぼんやりと骨格模型のMr.
Thrifty (skeleton 33-1/4” plastic model
: Item No. WCP-1 )
《www.anatomical.com》を見ながら、原始人に思いをはせるのもよいものだ。
(茂野 史利)
『リハビリ教育のネタ』:その22.―解剖見学―
授業の一部で、人体解剖の見学に学生を引率するとき、予めのオリエンテーションで倫理的な意味合いを講義する
のは難しいものである。解剖学の先生が直々に話してくれれば説法になるが、その他の者ではどうしても上辺だけの
言葉になる。そこでネタ帳を一つ。『人体解剖のすべて』(坂井建雄 日本実業出版社 1998 ¥1700)は引率者
だけでなく、学生の一人一人に読ませてもいい本だと思う。やはり、敬謙な意識の基盤をしっかりもたせて実習室に
入れたいものである。ところで、この中での出典図に関係した解剖図をもっと知りたければ、『アラマタ図像館2
解剖』(荒俣宏 小学館文庫 1999 ¥733)がある。
そして、医療についての考え方の歴史をひも解くには、『医学哲学はなぜ必要なのか』(石渡隆司 時空出版
2000 ¥3400)が参考になる。「医」のシンボルマークによくつかわれる「白い蛇」と「杖」の意味もわかる。
歴史的といえば、かつて日本では文学的に体をどのように扱ってきたかを書いたのが『からだの文化誌』(立川昭二
文藝春秋 1996 ¥1700)である。医学的な内容ではないが、講義途中での息抜用話題のネタ本にはなるかも。
(茂野 史利)
『リハビリ教育のネタ』その23.―関係法令―
「養成校」と「学生」の間には、契約関係が成り立っている。従って、入学時の条件で入学してきた学生に対して、
就学途中で一方的に条件を変えるのは、契約違反である。卒業するまで、入学時の契約事項を守らねばならない。そ
の学生について在学中に、授業料を増額するとか、卒業に必要な単位数を変更するとか、は出来ない。これがわかっ
ていない関係者が、結構多いように感じるのだが。
診療や介護も同じで、患者や対象者が診療を希望して来た時点で診療契約が成り立ったと解釈される。これが「応
召義務」であるが、このことを含め、必要な法令についてはしっかりと書いてあるのが『新版・福祉と医療の法律学!』
(梶原洋生 インデックス出版 2002 ¥2400)だ。福祉の観点から書かれているので、医療に関する記載が少ない
のは難点であるが、参考書として学生には読んで欲しい本である。発行年が新しいだけに、近年の多くの関係法の改訂
に即した内容であることも、使える理由である。小生は、医事法関係の講義に『医事法教科書』(植木哲 編 信山社
1997 ¥2800)を使っているが、内容が法の改正に追いつかず古くなったところが多くなっているので、この『福祉
と医療の法律学』に続編として「医療版」を出版してくれると嬉しい。
(茂野 史利)